長命寺の六助

説明

ねずみ捕りの上手な犬がいる。そんな噂を聞き、墨田区向島の長命寺に行ってきました。

本文

ねずみ捕りの上手な犬

ある寺に、ねずみ捕りの上手な犬がいる。そんな噂を聞いた。いろんな噂と、いろんな小鳥が私に集まってくる。困ったものだ。

ねずみ捕りが上手とは、どんな犬なのだろうか。体の一部がチーズに似ているのか。全身か。体臭か。まさかマルチーズか。

私は寺に行ってみることにした。週に5日しかない休日を半日つぶすぐらいの価値はある、と思ったからだ。

ねずみの用意

捕まえる瞬間を確実に見るには、ねずみを持参する必要がある。私は飼い犬に命令した。「ねじゅみとってきて」。裏庭から青い鳥をくわえてきた。

自分で探した。1匹目は簡単に捕まった。だが2匹目が捕まらない。そのまま3週間ほど経った。1匹目が死んだ。はつかねずみだった。

結局、おもちゃのねずみをバッグに詰めた。良くできたおもちゃだ。耳のようなものや尻尾のようなものまで付いている。

曳舟駅

最寄の曳舟駅に着いた。写真の通り、若者の集まりそうな駅だった。

ここから寺まで歩いて10分ぐらいだ。寄り道をすれば、もっとかかるだろう。

桜餅の葉

寺の近くに桜餅屋がある。女性の囁き以外の甘いものは苦手だが、話の種に入店した。

桜餅には葉が巻かれていた。「これも食べるんですか」と店員にたずねると、「乾燥よけのために巻いているので、お好みで」と言われた。煙に巻かれた。

長命寺

寺は長命寺という。境内に幼稚園がある。ゆりかごから墓場まで、ということか。

すぐそばに、ねずみ捕りの上手な犬がいるはずだ。期待に胸がふくらむ。腹も桜餅でふくれている。

犬の像

しかし犬は見つからない。境内は狭い。隅々まで何度も見た。泣きたくなってきた。

ふと足元を見た。犬がいた。

石像なのに、ねずみが捕れるのだろうか。しかも頭だけだ。私は右斜め45度に首をかしげながら家路についた。いや左だった。

六助塚

帰宅後、あの犬のことを本で調べた。

中央区の酒屋で飼われていた六助は、ねずみ捕りが上手だった。六助ににらまれただけで、ねずみは逃げられなくなったという。

ある日、六助は殺された。野犬狩りに遭ったのだ。その死を悼んだ有志は長命寺に碑を建てた。明治28年の話だ。

思い返せば、私の見た六助は優しい目で宙を見つめていた。視線の先で跳ね回るねずみに「遊ぼうよ」と呼びかけているように見えた。

関連情報

『名犬のりれき書あの犬たちはすごかった!』
230匹もの名犬にまつわる話をまとめた本。六助のことは本書で知りました。

この文書の情報

この文書はウェブサイト「ちんたらした暮らし」の一部です。

公開日
2003年10月19日
作成者
岩本隆史
URL
http://purl.org/net/slowlife/20031019/